本研究は、自然老化や痴呆に伴う学習・記憶障害と海馬を中心とした脳内神経機構との関連を明らかにすることを目的としている。 平成13年度から15年度にかけて得られた研究成果をまとめると、まず、抗コリン作動薬であるスコポラミン慢性投与による痴呆モデルラットにおいて、軽度の場所学習障害が認められ、これらの群で海馬吻側部の歯状回顆粒細胞軸索終末が増大する傾向が観察された。また、老化ラット(24カ月齢)において場所学習の顕著な障害が観察された。さらに成熟ラット(12カ月齢及び18カ月齢)のプローベテスト(逃避のためのプラットホームを取り除く試行)において、プラットホームのあった4分割領域に滞留した平均時間が統制群と比較して有意に減少していた。これらの24カ月齢及び12カ月齢と18カ月齢の場所学習障害群において、海馬全体の容積に対する背側海馬の前部領域の容積比が非障害群と比べて有意に減少していることが判明した。従って、背側海馬の前部領域が12カ月齢頃より有意に萎縮し、そのことが空間認知能力、特に場所学習能力の低下を引き起こしていたことが明らかとなった。以上のことから、痴呆や自然老化による空間学習障害と海馬吻側部の領域との関連性が強く示唆された。
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