本年度は、パヴロフ型条件づけにおいて刺激の単独前呈示がその後の条件づけを遅延ではなく促進させるための条件について、とくに刺激特質とその経験量に着目して探索的に研究を行なった。具体的には、味覚嫌悪条件づけの事態を用いて、最初に条件刺激の構成要素の複雑性と、単独呈示期と条件づけ期における刺激呈示の量的関係の交互作用について種々の分析を行なった。しかし、いずれの条件においても刺激前呈示は通常の潜在制止、すなわち学習の遅延のみを示した。つぎに、被験体にとって既知の刺激である水を刺激とし、実験中の維持には0.6%の食塩水を用いて実験を行なった。その結果、前呈示期の刺激の呈示回数が多く、またそれを条件づけ期と同一の文脈で呈示した場合には、やはり前呈示によって条件づけは遅延した。しかし、前呈示の回数を減少させるとともにそれをその後の条件づけ期とは異なる文脈内で呈示したところ、条件づけ後のテスト初日では潜在制止が認められたが、第2日では前呈示を受けなかった統制群と差がなくなり、さらにテスト第3日では前呈示群のほうが摂取量が少なくなった。すなわち、前呈示によって消去抵抗が増大するという、嫌悪学習の増強を示唆する結果を得た。
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