本年度は、まず昨年度の研究によって得られた知見に関するより詳細な条件分析を行なった。すなわち、昨年度の検討によって、水を条件づけと異なる文脈で前呈示した後にそれを条件刺激として嫌悪刺激に条件づけると、嫌悪の習得は通常予測される遅延(潜在制止)ではなくむしろ促進される可能性が発見された。今年度は維持溶液を昨年度の実験で用いられた食塩水から条件刺激と同一の水とし、この促進効果がより明確に示されることを確認した。また、異なる文脈のみの前呈示によってはこの促進効果は認められないが、異なる文脈内で水ではなく食塩水を前呈示しても嫌悪の習得の促進が生じることを確認した。これらの事実は、液体の自発的な摂取が安全か危険かを文脈間で弁別するという道具的学習の過程が関与している可能性を示唆するものである。 また本年度は他の研究課題として、2つの文脈の一方での液体(操作的な条件刺激)摂取が嫌悪事象を伴い、他方の文脈では同じ液体が単独で呈示されることにより成立する文脈と嫌悪事象との間の連合学習において、摂取される液体の既知性が影響する可能性についても検討した。その結果、学習の成立には液体の既知性が影響するという従来の研究結果からの示唆とは異なり、むしろ実験期間中に維持溶液として与えられる液体が条件刺激と異なる場合にのみ、文脈と嫌悪事象の連合が成立するための要件であることが示唆された。
|