表情および視線(顔向き)方向の初期知覚における相互関係を、線画および表情静止画を用いた認知実験によって明らかにすることを目的に研究を行った。実験パラダイムとしては、見本照合課題、視線・顔向きプライミング課題を用いた。 (1)見本照合課題:周辺視野に瞬間呈示される表情静止画の同定精度が顔向きの違いによる影響を受けるか否かを検した。とくに顔が自分の方を向く・向かないという他者との関係性の相違が、表情の知覚精度に影響するかどうかを調べた。課題は、左右いずれかの視野に顔写真を100ms提示し、短時間の後に提示される反応パネル(9枚の顔写真から成る)から、合致する顔を選択する、というものだった。実験の結果、表情の主効果が有意となり、正答率は怒り>喜び>中性の順となった。顔が自分の方を向く条件は、怒り表情でとくに精度が高いかった。しかし、喜び、中性ではこうした差異はみられなかった。この結果は、他者から向けられた威嚇信号を正確に知覚する認知機構の存在を示唆する。 (2)視線・顔向き方向に対する自動的な注意定位が、表情の違いによって影響を受けるか否かを検討した。用いた課題はFriesen and Kingston(1998)の手がかり課題であった。ターゲット(○印)提示の100ms前に、画面中央に顔写真を提示した。顔向きがターゲットの位置と一致する条件と不一致の条件で、ターゲットの位置弁別反応時間を比較したところ、一致条件での反応時間が有意に速く、顔向きによる自動的注意定位現象が確認された。さらに驚き、怒り、喜び表情の顔写真を手がかりとして提示する条件での反応時間を中性条件と比較したところ、驚き、怒りで交互作用がみられ、顔向き手がかりによる注意の自動定位は情動表情による影響を受け、驚き表情では一致条件で反応が有意に速くなり、怒り条件では不一致条件で反応が有意に遅くなることが明らかとなった。
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