研究概要 |
本年度は、視線方向が表情認知におよぼす影響に関する検討、および未知顔の再認記憶におよぼす表情の影響に関する検討を行った。 1 視線方向が表情認知におよぼす影響:他者情動・自己情動判断課題による検討 表情から読みとられる他者情動および他者の表情によって喚起される自己の情動が、視線向きによりどのような影響を受けるのかを情動評定課題により検討した。被験者は大学生・院生36名で、刺激は日本人男子3名がカメラに向かって0度、15度、30度の位置に視線を向け、基本6情動および中性表情を表出した写真を用いた。被験者は、刺激人物がどのような情動状態であるかを推測して評定する課題(他者情動)と刺激人物の表情を見たときの自己の情動を評定する課題を行った。その結果、視線向きの違いは表情が伝える情動および自己情動に影響を及ぼすことが分かった。直視視線と回避視線が他者、自己情動評定におよぼす影響は一様ではなく、表情カテゴリーによって多様であった。 2 未知顔の再認記憶におよぼす表情の影響 記銘時と再認テスト時の表情を操作し,表情の表す情動性の違いが,顔の記憶にどのような影響を及ぼすのか,知覚と同様に特定の表情の優位性がみられるのか否かを,意図学習・偶発学習,および画像再認・人物再認テスト(表情の違いに関わりなく同一人物か否かを判断する)により検討した.36枚の顔写真をターゲットとして記銘し、15分のフィラー課題を行ったのち、再認課題を実施した。その結果、意図記憶課題では同画像再認で怒り>喜びとなり、怒り優位性がみられたが、異画像再認ではみられなかった。また、偶発記憶課題では好意判断と示差性判断を記銘時の課題として実施した。その他の手続きは意図記憶課題と同様である。その結果、記銘時の表情の主効果が優位となり、喜び>怒りの笑顔優位効果がみられた。意図記憶と偶発記憶の差異に関するさらなる検討が必要である。
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