本研究課題では、乳幼児が、他者にも自分と同様に「心」があることを理解し、そうした他者の心の概念の発達過程を分析することを目的とした。そして、それに関連する複数の実験的分析をおこなった。以下、おもな成果を概略する。まず、1)ロボットを対象とした誤信念課題の実験から、幼児は、ヒトに対するのと同様にロボットにも誤信念を帰属させたが、「考える」といったような心的動詞は帰属させないことがわかった。そこに、ヒトとロボットに対する評価の違いが明確になった。2)「他者の心」を表象するためには、シンボルの二重表象性を理解する必要がある。そのことを検討するため、スケールモデル課題を用いて、2歳児と3歳児を対象に、その発達を調べた。その結果、シンボルの二重表象の理解は、2歳半から3歳にかけて劇的に発達することが明らかになった。3)テレビに映った映像と実際の映像はどのように関連づけられるのだろうか。ヒトと同じ霊長類のテナガザルを対象として、選択課題の手がかりを映像の中で呈示する条件と、実際に呈示する条件で正答率を調べたが、どちらの条件でも差は見られなかった。同様のことをヒト幼児で検討するため、データを収集している。4)乳児を対象として、コンピューター画面に呈示されるアニメーションオブジェクトに心的状態を帰属させるか否かの検討を通して、基礎的な「心」の想定条件を調べた。その結果、ある物体の行為を邪魔しているように見える物体よりも、その行為を達成するために援助しているように見える物体のほうを好んで見ることがわかった。
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