研究概要 |
小児の注意欠陥多動障害(ADHD)の成因を探るために、ラット胎生期にメチルアゾキシメタノール(MAM)を投与することによって、海馬もしくは小脳の発生学的形態異常を有するADHDモデルを作成し、これらの動物について活動性(多動性)および種々の学習事態で行動分析を行い、これらの動物の行動異常と神経学的所見との相関を求めた。 胎生13、15または19日にMAMを投与した動物(それぞれMAM-13,MAM-15,MAM-19群)について、juvenile期および生体期に実験的飼育環境場面での自発運動量を測定したところ、明期では群間の差異はなかったが、暗期ではいずれの分析時期においてもMAM-13およびMAM-15群の自発運動量は対照群よりも多く多動傾向を示した。一方、MAM19群の自発運動量は対照群よりも少なかった。 シャトル回避学習事態における分析では、juvenile期においては群間に有意な差はまったく検出されなかったが、生体期においては、MAM-13およびMAM-15群は回避学習の促進を、逆にMAM-19群は回避学習の遅延を示した。 放射状迷路学習事態における分析では、放射状迷路での獲得訓練後の遅延課題テストにおいて、MAM-15群は顕著な、またMAM-13およびMAM-19群は軽度ではあるが有意な空間認知障害を示した。 MAM-13およびMAM-15群において検出された行動異常は、これらの群で観察された新皮質の形成不全とだけではなく、海馬の発生学的形態異常(海馬CA1錐体細胞の特異な乱れおよび上行層また網状分子層への拡散、さらに海馬白板の背側に観察された異所性の錐体細胞の集塊)と相関していること、またMAM-19群において検出された行動異常は、この群で観察された小脳前葉の低形成および葉形成の発生学的形態異常と相関していることが明らかとなった。
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