研究概要 |
小児の注意欠陥多動性障害(ADHD)の成因を探るために、ラット胎生期にメチルアゾキシメタノール(MAM)を投与することによって、海馬もしくは小脳の発生学的形態異常を有するADHDモデルを作成し、これらの動物が示す行動学的異常と神経学的所見との相関を求めた。 胎生15もしくは19日にMAMを投与した動物(それぞれMAM-15,MAM-19群)について、離乳期、juvenile期および成体期に、1)15分毎に室内光が明暗する飼育環境事態での明暗馴致過程について、赤外線による活動性の測定を3分毎に行うことによって分析したところ、どの発達時期においても、対照群に比べてMAM-15群は環境変化に対する馴致が遅れる傾向を示した。MAM-19群は対照群と異ならなかったが、hypoactive(活動性の低下)な傾向を示した。2)水迷路での空間認知学習においては、MAM-15群はどの発達時期においても顕著な空間認知障害を示したが、MAM-19群は対照群と異ならなかった。成体期の放射状迷路での場所もしくは手掛かり課題下での空間認知学習において、MAM-15群口場所課題においてのみ参照および作業記憶ともに顕著な障害を示した。MAM-19群はいずれの課題においても対照群と異ならなかった。 MAM-15群における馴致の遅延傾向および空間認知障害は、この群で観察された新皮質の形成不全とだけではなく、海馬の発生学的形態異常(海馬CA1に特異的な錐体細胞の拡散、および脳梁の腹側に観察された異所性の錐体細胞の集塊)と相関しており、このことは、ADHD発症が海馬の発生学的形態異常と関連している可能性を示唆するものである。MAM-19群の組織学的検索においては、小脳前葉の低形成および葉形成の発生学的異常が観察されたが、これらの形態学的異常は馴致や空間認知機能に直接関与するものではない可能性が示唆された。
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