研究の基礎資料として、東北大学歯学部附属病院口腔機能治療部の協力により、口蓋裂・口唇裂児とその保護者とのコミュニケーション場面の撮影を行った。5歳から9歳の患児63名(男児33名、女児30名)コミュニケーション時の上半身像を約5分間にわたって撮影した。その後、ア・イ・ウ・エ・オの発音と、笑顔・怒った顔・悲しい顔をすることを求め、その状況についても撮影した。さらに対象群として健常児20名(男児8名、女児12名)についても同様の状況での撮影を行った。 口蓋裂・口唇裂児のコミュニケーション場面と健常児のコミュニケーション場面について、(1)口の動き、(2)顎の動き、(3)鼻の形、(4)笑顔について、「自然な」印象か「やや不自然な」印象を受けるかを2名のナイーブな学生に評定させた。その結果、顎の動きについては口蓋裂・口唇裂児の約半数でやや不自然な印象が生じていたが、笑顔については口蓋裂・口唇裂児すべてについて自然な印象を与えていた。このことから、口蓋裂・口唇裂児のコミュニケーションにおいても笑顔がポジティブな影響をもたらすであろうことが推測された。 表情表出活動の定量的測定を行うための準備として、口蓋裂・口唇裂児の鼻の形状に対して定量的な測定を行った。口蓋裂・口唇裂児の中には独特の形状の鼻をしたものがおり、そのことがからかいの対象となって彼らのコミュニケーション活動に悪影響を及ぼしていることが考えられる。そこでどのような鼻の形状が知覚的に目立つかについて検討した。その結果、左右の鼻孔が垂直方向にズレていることが最も知覚的に顕著であり、さらに鼻の横幅が広い場合に形状の問題がより目立つことが明らかになった。
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