昨年度の口蓋裂・口唇裂児(5歳から9歳)のコミュニケーション場面の撮影に引き続き、研究の基礎資料として、東北大学歯学部附属病院口腔機能治療部の助力により、成人口蓋裂・口唇裂者に表情表出場面の撮影の協力を得ることができた(18歳から31歳、男性9名、女性22名、現在も継続中)。 ハーフミラーを用いた撮影装置を自作し、対象者が鏡に向かって眉・目・口を動かしたり、笑顔などの表情を作る様子を鏡の背後に置かれたデジタル・ビデオ・カメラで撮影した。その際、無意図的な笑顔が生起するよう話しかけを工夫した。同じ撮影条件での健常者(18歳〜20歳、女性10名)の映像と比較して、質的分析を行った。 インコンプライアンスと思われる表情変化の乏しい者が31名中4名見られたが、多くの口蓋裂・口唇裂者で無意図的な笑顔を撮影することができた。無意図的な笑顔については口唇裂・口蓋裂児の場合と同様に、すべてのケースにおいて「自然」な印象であり、笑顔の表出において口唇部の裂の影響は比較的小さなものであることが示唆された。 一方、笑顔や悲しい顔、驚いた顔などの意図的な表出については、対象群に比べて、顔の動きの変化が小さく、また表出の工夫をすぐにあきらめるなどの差異が見られた。 口蓋裂・口唇裂者の無意図的笑顔についての質的分析において、無意図的笑顔の表出時には、裂の瘢痕や唇裂鼻と呼ばれる鼻の変形が目立たないという印象が報告された。これは口蓋裂・口唇裂者の社会適応という点で重要な意味をもつ知見と考えられ、印象の妥当性について検討する予定である。
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