どのような質問を行えば、子どもは体験した出来事をより正確に、より多く語ってくれるだろうか。本年度は、2つの方向で研究を行った。第一は、司法関係者から提供を受けた事例の分析であり、第二は母子54組を対象に行った調査の再分析である。 1.事例研究:<事例1>被害の申し立てをした人物A(知的障害があり、就学前程度の知能であると推察される)に対する、施設職員の面接を分析した。録音された285の質問と応答を分析したところ、WH質問は11%と少なく、YesNo質問は53%であった。また、Aの発話は「うん」が30%、実質的な命題を含む応答は58%であった。命題内容を分析したところ、31の命題のうち自発的に語られたのはWH質問に対する10だけであり、残りはYesNo質問の内容をそのまま答えたものか(問「〜したの?」答「〜したの。」等)、前の答えの繰り返しであった。WH質問の重要性が指摘できる。 <事例2>法廷での裁判官、検察官、弁護人の質問と子どもの応答(計1603発話)を分析した。Lawyerese(法律家言葉)の特徴として知られる(1)少ないWH質問、(2)難しい言葉、(3)長文、(4)否定文、(5)誘導(〜ね)について検討したところ、裁判官と弁護人はWH質問が少なく、文が長く、否定、誘導が多かった。子どもの反応も、裁判官と弁護人には「はい」が多く、沈黙や「分からない」も多かった。ここでもWH質問の重要性が指摘された。 2.調査研究:別件の調査資料(金敬愛との共同研究で、中国人親子54組を対象に出来事の語りを調べた)を、親の質問という観点から分析した。子どもの年令(3〜5歳)が低いほど、親は多くのYesNo質問を行うことが明らかになった。 3.次年度以降の計画:大人はYesNo質問をしがちだが、YesNo質問は子どもの反応を限定し誘導する可能性が高いことが示唆された。来年度は、(1)日本人親子を対象に出来事の聞き出しの調査を行うとともに、(2)質問が応答に及ぼす影響を実験的に調べる。現在、ビデオ刺激を作成中である。
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