研究概要 |
視覚刺激に出会って知覚が短期間のうちに発生するmicrogenesisの過程は,刺激が曖昧な場合,照明が暗い場合,提示時間がごく短い場合などの知覚から推察することができる。加齢や疾患によって視覚情報が制約される事態もmicrogenesisの発生過程に位置づけることができる。本研究では加齢・疾患を念頭にしてそれをシミュレートする形で,視覚事態の制約の効果を明らかにすることを目的とした。 研究代表者は永らく順応/残効の手法を用いてきたので,今回はそれを立体視に応用した。正面透過型ホイートストン実体鏡を用いて,順応過程では両眼視差を持つが視角的には大きさ等しい2つの正方形を繰り返し瞬間提示したのち,残効過程として両眼視差のない2つを提示した。両眼視差を持つ順応場面で大きさの恒常性が働けば,遠くの方が大きく見えることになる。両眼視差のない残効場面では奥行きの残効と大きさの残効が生じることになる。 予備実験も含めて100名以上の健常学生を被験者にしたが,瞬間提示で大きさの恒常性が確実に働いた者はおよそ半数で,それに見合った残効の生じた者はごく少数であった。6秒程度までの提示時間では健常学生でも実体鏡での立体視は相当困難だったといえる。ただし,一部の被験者においては予想通りに順応/残効が推移した。 こうした提示時間の制約という効果をmicrogenesisの発生過程に位置づけて検討しなおす必要がある。研究代表者が行ってきた線分の長さの順応/残効における瞬間提示と繰り返し提示の効果を下敷きにして,両眼立体視成立における瞬間提示と繰り返し提示の効果をさらに明らかにしたうえで,加齢や疾患における視覚事態の制約とそのmicrogenesisに迫ってゆきたい。
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