昨年度に引き続き、NICUにおいてカンガルーケア(KC)を体験した極低出生体重児とその母親(KC群)、体験しなかった極低出生体重児とその母親(対照群)の行動を、保護者の同意を得た上で、修正年齢1歳半の発達検査場面でVTRに記録し、サンプリング間隔5秒のワンゼロサンプリング法を用いて定量的な分析を行った。35組の母子については、さらに長期の予後を調べるために修正年齢3歳の時点での観察も行った。1歳半に関しては両群合わせて84例のサンプルが得られたが、児の体調や同伴者の有無など条件をそろえると、分析可能なのはKC群30組と対照群31組であった。分析の結果、KC群の母親は、対照群に比べ、児への語りかけの量に差はなかったが、内容では、共鳴・共感の発話が多く(p<0.005)、否定や疑問の発話が少ない(p<0.005)などの特徴が見られた。またKC群の母親には笑いが多く見られた(p<0.01)。一方、KC群の児は、検査場面で泣くことが少なく(p<0.05)、微笑みを多く示した(p<0.05)。さらに、1歳半と3歳データが共に得られた母子は合わせて10組であったが、年齢間で相関をとると、母親の行動の全てが有意(p<0.05)あるいは有意に近い(p<0.1)正の相関を示した。カンガルーケアは、赤ちゃんを母親の裸の胸に抱いて皮膚と皮膚を接触させる育児方法で、濃密な接触により、極低出生体重児の生存率を高め、養育遺棄を減らす効果があると言われているが、本研究の結果は、カンガルーケアが、1歳半の時点での母子関係を促進する効果があることを実証的に示している。また、その効果は3歳になっても維持される可能性が示された。さらに、本研究の結果は、生後初期のカンガルーケアが、母親の受容的・共感的な応答性を高めることにより、安定した母子の愛着形成に寄与する可能性を示唆するものと考える。
|