研究概要 |
人はある問題状況に直面したとき,自分なりの論理や習慣、経験にしたがって問題の解決を行う。また、エネルギーを節約しプロセスの効率を高めるために,注意や情報の探索法などに改良を試みる。情報処理活動における方略の獲得は、主体自らが能動的に心的過程を制御することで得られる概念的思考であり、人では幼児期の2歳を過ぎた頃から言語の獲得にともなって発達することが知られている。今回我々は、概念思考のひとつである「学習の構え」の形成を条件性視覚運動学習のモデルとして、このような霊長類において特徴的な問題解決に関わる神経回路の学習獲得過程における時系列的な変遷を、サルに非侵襲的な脳機能イメージング法を適用して追跡した。実験では、図形弁別課題を学習経験が情報処理過程に及ぼす影響を調べるために、アカゲザル(5-7才)に幾何学模様を用いた対刺激同時弁別課題を訓練し、次々に新規刺激対からなる新規学習を経験させ学習期の反応時間を詳細に解析した。新規課題の課題解決の経験数が増加するに伴い、各新規課題で正解率90%以上の基準に要する試行数は有意に減少し、いわゆる「学習の構え」の形成が観察された。またこの時、各新規課題で正解率90%以上の基準に達するまでの時期(問題解決期)の平均反応時間は有意な上昇を示すことが明らかになった。さらに陽電子断層撮像法(positron emission tomography, PET)を用いた機能イメージングを行った結果、「学習の構え」形成に伴い問題解決に携わる神経ネットワークに変遷が認められた。
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