研究概要 |
1.アイカメラによる検討 半側空間無視患者の左側を見ようしない性質,またそれに伴う左側の感覚入力の欠落を利用して,錯視様の構造的な線分二等分課題を実施し,その間の眼球運動を記録した.100mmあるいは200mmの線分,また,これらの線分と画面上の右端(あるいは左端)を一致させた150mmの線分を液晶ペンタブレット上に呈示し,顕著な左半側空間無視を示す患者に二等分させた.そしてこの間の眼球運動をアイカメラにより記録した.その結果,患者のつけた二等分点は真の中点より右方に偏り,右端の位置が一致する線分間では画面上の二等分点の位置に差を認めなかった.また,線分の右端の位置がより右方にある場合,急速で大きな注視点の右方への移動を示すことが観察された.患者は線分の右端の位置から,感覚入力上は欠落している成分を補完し,二等分を行っているものと考えられた. 2.線分内の注視点 液晶ペンタブレットの画面上で,後に呈示される線分上の一点に注視点を示し,左半側空間無視患者の固視点を統制した線分二等分課題を実施した.同じ長さの線分を複数回呈示したにもかかわらず,患者は3種類以上の長さの線分が呈示されたと指摘した.注視点により線分の長さに錯視が生じている可能性を示しているものと考えられ,次年度に向けて更に検討を行う. 3.点の位置の記憶課題 画面上に1点あるいは2点を呈示し,その位置を記憶させる課題を実施した.1点の記憶課題では健常者は画面左方では左方に,右方では右方に再生位置がずれる傾向を示し,左半側空間無視患者では左方では右方に,右方では左方にずれる傾向を示した.また,無視の重症度が軽度になるにつれて,健常者の傾向に近づいた.2点の呈示はまだ一定の傾向を得られていない.これらの結果は両眼視差と半側空間無視の相互作用による考察が可能であると思われる.
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