本研究は、層理論を基盤とするパーソナリティ心理学的視点から、痴呆性高齢者の個人差について感情傾向に焦点をあてながら分類・把握するとともに、個人差を考慮に入れたケアの体系化の可能性について検討することを目的としている。 本年度は、まず、昨年の施設調査を基盤に、東北地方を中心とする18の施設において、204名の介護担当者を対象とする調査を行った。調査の目的は、1)痴呆性高齢者のパーソナリティの分析、2)痴呆性高齢者の感情傾向の分析、3)上記2点を基盤とする痴呆性高齢者のタイプ分けの3点であった。具体的には、介護を担当する4名の高齢者について、昨年の調査を基盤に作成されたパーソナリティ尺度および感情傾向尺度により評定を求めるとともに、ケアのさいの対応のしやすさについて順位づけ、さらに、それぞれの高齢者のケアを行うさいの留意点および効果の有無について自由記述で回答を求めた。その結果、痴呆性高齢者のパーソナリティは、昨年とほぼ同様に、円満・穏和な感情を基盤とする協調型、怒り・攻撃を中心とする攻撃型、悲しみ・不満を中心とする排斥型、自尊と没入を中心とする内閉型に分類できることが明らかになった。また、対応するケアに関しても、協調型が共行動を中心とする介護者の積極的な対応を生み、有効性も認識されやすいのに対し、排斥型や内閉型では、見守りを中心とする対応になりやすく、ケアの有効性も認識されにくいことが明らかになった。 ひきつづき、18施設中の2施設において、質問紙への回答者を中心に、22名の介護担当者に対し、4タイプの典型例を提示し、個々の体験をふまえ、それぞれどのようなケアを行うか、面接調査により回答を求めVTRに録画した。内容は、会話分析の手法に基づきカテゴライズし、タイプ別に検討を行った。結果は、少なくとも現段階では、予測に反しタイプとの関連はさほど明確ではなく、むしろ個々の介護者のケアに関する素朴理論の存在を示すものとなった。この点に関しては、次年度も対象者を増やし、ひきつづき検討を行う予定である。感情傾向の変化に関する家族調査も並行して進めているが、協力者の獲得が困難で本年度中に結果をまとめることができなかったので、これも次年度の課題としたい。
|