本研究では、パーソナリティ研究における層理論の考え方を基盤に、痴呆性高齢者の感情傾向やパーソナリティにみられる個人差のタイプ化を行い、それぞれのタイプに対応するケアの様相を明らかにすることを通じ、個人の特徴に即したケアの体系化を図ることを目的とした一連の調査研究を行った。主要な知見は以下のとおりである。1)痴呆性高齢者の基層にある感情分析カテゴリの作成を行い、本邦でも使用できる妥当なカテゴリを構築した。2)これらの感情カテゴリや、パーソナリティ特性尺度を用い、施設介護担当者が有する痴呆性高齢者に対する感情・性格認知を検討した結果、感情については、陽性、陰性、不快の3感情、パーソナリティについては、攻撃、協調、誠実、内閉という4側面に関する認知次元が存在するという結果が得られた。両者の間には、陽性-協調、陰性-誠実・内閉、不快-攻撃という強い関連性がみられ、介護担当者が有する痴呆性高齢者のパーソナリティ観(lay theory)には、痴呆性高齢者の感情傾向の個人差が反映している可能性が示唆された。3)介護者の介護経験等とこれらの認知との関連を検討した結果、経験年数が増えるにつれて、痴呆性高齢者に対する見方がnegativeなものへと変化していくことが示された。4)痴呆性高齢者の家族について、同様の尺度を使用して検討を行った結果、家族についても施設介護担当者とほぼ同様の認知枠がみられることが明らかになった。5)家族に痴呆性高齢者のパーソナリティ変容を時系列的・遡及的に尋ねた結果、陽性感情および協調性、誠実性が、病前に比べ発症時において顕著に低下したと認知されていることが明らかになった。陰性・不快感情や攻撃性・内閉性については、低下したという認知は保有されていなかった。6)施設介護担当者の痴呆性高齢者に対する感情・性格認知と、ケアおよび対処行動との関連を検討した結果、パーソナリティ認知の3側面(攻撃、協調、誠実)を組み合わせた8通りのタイプ(無気力、内閉、気配り、社交、粗暴、執着、自己中心、自尊)により、特徴の認知についても、対応するケアについても一貫性の高い傾向性がみられることが明らかになった。この分類枠を本研究で得られた最大の成果とし、介護者の初期適応における有用性等に関し、今後の検討にゆだねることとした。
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