人間の判断と意思決定が、文脈や言語表現や手がかりなどによって変異してしまう現象は判断と意思決定の状況依存性としてとらえることができる。本研究では、社会的状況における判断と意思決定の状況依存性を、種々の心理実験を通じて解明し、さらに、この状況依存性を理論的観点から説明し、予測可能な心理計量モデルの作成、その数理モデルの作成、そして、この数理モデルの表現定理の導出を行なうことを主目的とした。 社会的環境における判断と意思決定の状況依存性は、実務的あるいは政策的インプリケーションを持っている。たとえば、消費者の判断と意思決定が状況依存的であると、マーケティングの価格政策や経済政策が失敗することがある。また、リスクコミュニケーション政策においても、市民の判断の状況依存性が、同様の理由により既存の効用分析や価値分析の結果を無効にすることがある。さらには、税制などの施行や金融政策などにおいても、状況に依存してなされる市民の判断や意思決定のために、経済学的予測が間違ったり、無効になったりすることがある。これらの社会的環境における状況依存性を、単にバイアスであるとか誤差であるとみるのではなく、系統的な心理傾向を持っていると考えることによって、判断や意思決定現象の理解がより有効になると期待することができる。本研究では、判断と意思決定の状況依存性を、さまざまレベルの判断や意思決定現象にわたって、種々の心理実験を通じて解明し、さらに、この状況依存性を理論的観点から説明し、予測可能な心理計量モデルとその数理モデルの作成をすることを主目的とし、その検討を行った。さらに、本研究では、状況依存性を持つデータを解析する方法論の検討をした。判断と意思決定の状況依存性は、その時間的変動や共時的振幅を考慮すると、曖昧性を含む判断や意思決定とみなすことができる。このような観点から、本研究では、心理データ解析のための方法論も幾分開発している。この報告書の第I部では、状況依存的な判断と意思決定の実験研究とその計量モデル・数理モデルについての成果を記載し、第II部では、状況依存的な判断と意思決定の数理モデルと表現定理の解明についての成果を記載した。
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