研究概要 |
本研究では,心を理解する能力の発達について,主に他者の心的表象と心的属性の理解の観点から検討を行うことによって,幼児・児童の心の理解能力の発達と,その教育可能性を検討することを目的とするものである. 本年度は,その第2段階として,幼児・児童の心の理解能力を測定し,一定の学習を挿入することによってその能力に変化が生じるかどうかを,2つの実験によって検討した. 実験1では,心の理論課題として,小学校2,4,6年生を対象に,それぞれを2群(実験群と統制群)に分けたうえで,Strange Story Task, Faux Pas Testを実施し,心の理論能力を測定した.その後,両群に同じ物語を読ませた上で,実験群には物語の登場人物の心的状態(欲求,意図,感情など)について尋ねる課題を,統制群には物語の事実関係を尋ねる課題を実施し,最後に再度心の理論課題を行った.その結果,挿入課題の性質(心的状態について尋ねるか否か-心的状態に注意を向けさせる程度)による心の理論能力への影響は認められなかった. 実験2では,実験1とは異なる小学校2,4,6年生を対象に,心の理論能力を測定後,ある物語を読ませ,それぞれを2群に分けて,実験群には物語の登場人物の心的状態について尋ねる課題を与えるとともに,それについての詳しい解説を与え、統制群には物語の事実関係について質問するとともにそれについての詳しい解説を与えた.そしてその後両群の心の理論能力を測定した結果,実験群の2年生にのみ挿入課題の効果が認められた. 以上のことから,心の理解能力は,低学年の児童では一定の情報(他者の心的状態についての説明など)を与えることによって上昇させることが可能であることが示唆され,この種の能力の教育可能性が確認された.今後は,この種の教育効果が低学年児童に限定されたものであるのか,介在学習の内容によっては高学年にも拡大可能なものであるのかを検討することが必要であり,これについては平成15年度に行う予定である.
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