本研究の目的は、組織の中で地位の高い人が、低地位者を認知する際に歪みが生じる問題を、行動統制という要因に着目して実験的に検討することである。これまでの研究では、高地位者は運命統制という社会的勢力を持つので、低地位者を所属するカテゴリーに基づいてステレオタイプ的に判断しやすいことが示されている。しかし、高地位者は同時に行動統制という別のタイプの勢力を持ち、低地位者の行動を直接左右する。本研究では、運命統制とは独立して、行動統制もステレオタイプ的判断の生起に影響することを、3つの実験で検証した。まず実験1では、高地位者の側に「行動統制」「運命統制」がそれぞれ有る場合と無い場合を操作して(2×2の実験デザイン)、対象人物(低地位者)の成績から数学能力をどう認知するかを測定した。その人物の所属する「ある大学の学生は数学能力が低い」というステレオタイプがあるもとで、これに反して数学パズルの成績が良くなる実験場面を設定した。その結果一部仮説に沿った結果も得られたが、概して良い成績のみを考慮に入れた印象が認められた。そこで成績を少し下げるなど手続を改良して、同じデザインで実験2を実施した。その結果、行動統制がある場合には無い場合よりも、数学能力が低く評定されたことが認められた。すなわち、行動統制が運命統制とは独立して、ステレオタイプ化に影響した証拠が得られたのである。この結果は、相手への注意不足が媒介している可能性が議論された。他方、運命統制の影響は認められなかった。さらに実験3では、行動統制を持つか持たないかだけが異なる2種類の高地位者の役割を設け、ステレオタイプ通りであれば好成績が期待される、低地位者の低成績から形成された印象が測定された。この結果も仮説に一貫する方向であったが、統計的有意水準には達しなかった。そして、得られた結果の考察と、今後の課題についての議論がなされた。
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