留学生の孤独感は、出身国との文化的差異の大小、現在の生活環境、日本語習熟度などによって量的にだけでなく質的に大きく異なる。そこで本研究では、個々人の孤独感を診断的に詳細に分析することを目指して、個人別にイメージ構造分析した。分析のための技法には、筆者内藤(1997)によって開発されたPAC(パック)分析を用いた。これは、被検者の自由連想、被検者による連想項目間の類似度の直感的評定、ウォード法によるクラスター分析、クラスターに対しての被検者自身によるイメージ報告、検査者による総合的解釈という、自由連想、多変量解析、間主観的解釈のプロセスを通じて個人のイメージ構造を解明する事例分析法である。 本年度の研究では、次の点が明らかとなった。孤独感を喚起するものは、大勢の見知らぬ人の中にいること、親しい人の死(対象喪失)を思い出すことなど、個人によって異なる。孤独感を緩和するものとして、身内や恋人のような親密な者だけでなくはじめて出合う他者からのソーシャルサポート(対面だけでなく、手紙やEメールなどによる)、過去の楽しい出来事の回想、歌を歌ったり楽器を演奏したり演奏を聴くなどの音楽、宗教的信仰が有効であるが、何が有効であるかは個人によって異なる。個々人の孤独感は、それぞれに、喚起する原因と緩和のための対処行動がイメージ構造として統合化されている。 留学生の異文化適応を促進し、孤立を避けるためには、同国人留学生を中心としたネットワークを構築すること、日本人学生との交流を促進することが示唆された。また、親和欲求が高くても内向的な留学生は見知らぬ人に話しかけるのを躊躇することから、出身国の異なる外国人留学生や日本人学生との交流には、内向的な留学生も参画できる日常的な交流活動を工夫しなければならないことが示唆された。 引用文献:内藤哲雄1997PAC分析実施法入門:「個」を科学する新技法への招待ナカニシヤ出版
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