留学生の孤独感は、留学目的、出身国との文化的差異の大小、現在の生活環境、日本語習熟度、学部か大学院かの学校水準、留学期間、年齢、配偶者の有無、個人の性格や価値観などによって、質的に大きく異なると考えられる。そこで、本研究課題では、個々人の孤独感を診断的に詳細に分析することを目指した。分析技法には、筆者内藤(1997)によって開発されたPAC(パック)分析を用いた。これは、被検者の自由連想、連想項目間の類似度の被検者による直感的評定、ウォード法によるクラスター分析、クラスターに対しての被検者自身によるイメージ報告、検査者による総合的解釈という、自由連想、多変量解析、間主観的解釈のプロセスを通じて、個人ごとにイメージ構造を解明する事例分析法である。 3年間にわたる研究を整理して本報告書にまとめた結果、以下の傾向が明らかとなった。(1)短期交換留学を含めて留学の初期は、日本語、日本文化、日本人との人間関係に戸惑い、孤独を感じ、母国や母国の人々への郷愁を感じていた。他方では、留学当初の目的意識を感じており、適応が進むにつれて積極的に取り組もうとする姿勢がみられた。(2)留学期間が4年を超える中期になると、生活や修学には支障がなくなるが、留学当初の目的意識が揺らぎがちであった。(3)年齢が30歳以上で日本語学習歴が長く、日本滞在が長い者に、アイデンティティを再確認しようとする傾向があった。(4)宗教的信仰の強い者において、孤独感を試練として宗教的に意味づけることがみられた。(5)母国と日本での人間関係のスキーマ(認知的枠組み)の違いが対人葛藤を生じ、孤独感に陥るケースがみられた。概して、留学期間が長くなり年齢が高くなるにつれて、孤独感の内容は異文化適応からアイデンティティの問題へと転換すること、PAC分析が各自の診断やカウンセリングに活用できることが確認された。
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