本研究は、就学前期に信頼性の高いADHDの心理学的診断法を確立することを目的とし、行動評定尺度、観察法、神経心理学的検査を統合した診断法の開発を試みた。主な結果は、次の通りである。 1)DSM-IVのADHD診断項目を幼児に適用した場合、米国で見られた2因子構造は認められず、本研究では1因子構造であった。また、日本の結果は米国の結果よりもADHDの出現率は低いだけでなく、ADHDのサブタイプの出現率でも不一致が認められた。この結果は、ADHDの診断項目の作成で日本での標準化作業が必要なことを示すものであった。 2)幼児の生活実態に即したADHD診断用の行動チェックリストをBarkeyのモデルを基礎に作成した。これを教師に実施したところ、幼児期前半にある子どもでは行動抑制と情緒の調節が、また、5歳以降の幼児期後期にある子どもではプランニングや創造性の発達に焦点を当てた質問が診断に有効であることが明らかになった。 3)いくつかの場面での指標を定めた観察法により、ADHDであるか否かにかかわらず、適応行動は設定保育場面で、不適応行動は自由保育場面で現われやすいことが明らかになった。また、ADHDか否かの差に注目する場合は、設定保育場面の不適応行動に差違が現われた。 4)神経心理学的方法では、行動抑制をみる線引き課題、プランニングをみるタワー課題、非言語作業記憶をみる積木叩き課題と手の模倣課題、運動のコントロール力をみる開眼片足立ち課題でADHD群と健常児群に有意差が認められた。また、これらの検査成績は5歳前半から後半にかけて顕著な成績の上昇があり、診断時期としては5歳後半から6歳までの段階が相応しいことが明らかになった。
|