昨年度の研究で、先行母音の音響的弁別特徴が実際にヒト成人の音韻知覚に貢献しているかどうか確かめるために、音韻修復現象を利用した実験をおこなった。「母音・破裂音」中の破裂時点から100msを帯域雑音に置き換えて、破裂音の音響的弁別特徴を除去した。その結果、雑音置換した破裂音のみの提示では、同定率がチャンスレベルまで減少したが、これに本来先行する母音を付加すると、同定率は正常な「母音・破裂音」に近い水準まで回復することがわかった。さらに、先行母音の末端部を雑音置換して同様な実験をおこなったところ、先行母音が後続することによって子音部の知覚を促進する効果が消失した。これらの結果から、後続する破裂音の知覚に際して、先行する母音末端部のフォルマント周波数変化すなわち調音結合に関する情報が寄与していることが支持された。 本年度の研究では、4・6歳の幼児を対象として上記の音韻修復現象を用いた知覚実験をおこなった。その結果、雑音置換された破裂音の単独提示では成人と同様な聴取率の低下が認められた。これに対して、雑音置換破裂音に母音末端部を先行させて提示した場合には、成人で見られた明確な聴取率の回復はなかった。これらの結果は、調音結合の知覚が4・6歳の年齢で完全には発達していないことを示唆するものである。今後は、この年齢でのサンプル数を増やしてさらに検討を加えるとともに、これら幼児の「母音・破裂音」発声の分析をおこなって、調音結合の「知覚と発声」の発達とその相互関係について検討をおこなってゆく予定である。
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