実験では、連続発声された母音/a/と破裂音/t/+/e/や母音/a/と破裂音/P/+/e/を知覚する際に破裂音部分を雑音によって置換した場合の先行母音/a/の効果について調べた。この時、後続する破裂音の調音を予期した運動が先行母音中に出現するのであれば(調音結合)、先行母音の音響成分のなかに後続する破裂音を識別するための情報が含まれているはずである。実際に、成人を対象とした知覚実験では予測通りに音韻の修復現象を観察することができた。さらに、後続する破裂音の違いによって母音/a/の末端部の第2フォルマント遷移が異なっていることが確認され、これが弁別的特徴となっていることが示唆された。音韻そのものの知覚と発声がほぼ形成される4 6歳の幼児における修復現象を調べることによって、その発達的変化を検証した。年齢の増加とともに正答率も上昇する傾向が認められ、先行母音の音響学的特徴が成人のそれに近い子どもほど正答率が高かった。これらの結果は、調音結合の生成と知覚が個体の発達のなかで相互作用しながら形成されていくという仮説を支持する。 言語のインターフェースにおける、定性的性質と定量的性質の変換に関するモデル研究をおこなった。特に、信念の程度(定量的性質)と意味の真偽(定性的性質)、音声の知覚関連物理量(定量的性質)と音韻の弁別素性(定性的性質)の相互作用に関する研究を重点的におこなった。その結果、音声の調音結合および実時間上の音響特性の最適値は、単に調音運動による制限のみならず、知覚的制限も強く影響していることが明らかとなった。この現象は、phononと呼ばれる原子的なカテゴリーがもつ数量的な分布モデルによって捉えることが可能であった。また、意味に関しては、従来の真理関数的なアプローチでなく、確率論に基づく「信念」を中心に据えることで、反事実条件文の意味がより適切に捉えられた。
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