研究概要 |
本研究は、新・認知的不協和理論(Aronson,1999)の枠組みから産出した社会心理的技術を、学校のいじめ場面における傍観児の援助行動の促進に適用した、世界に例のないユニークな研究である。 第1に、「いじめ傍観児の認知的不協和と援助行動の関連について」の実験を行った。いじめ傍観児とは、学校のいじめ場面において被害児を援助すべきであると思いながらも何らの援助をしないで傍観していることを言う。そのような児童は、葛藤(認知的不協和)を抱き、その不快な気分から葛藤を解決するよう動機づけられ、被害児を援助するよう動機づけられ、被害児を援助することで不快感を解消すると想定する。特に、公的な表明(他者を援助することは大事だと表明)をさせ、それに対する矛盾行動を顕在化させ(実際にはいじめ場面で援助していない自分の過去行動を自覚させる)、自己矛盾を認識させる偽善パラダイム(Aronson,1999)テクニックを用いた。小学生115名を対象にした実験において、偽善条件群は他の3条件群に比べ、有意に援助行動傾向(いじめ支援の仲間づくりの集団活動に積極的に参加したい)が高く、仮定を検証した。本結果は、いじめへのピアサポートプログラム開発に偽善パラダイムを用いることの有効性を示した。 第2に、この偽善パラダイムを用いた、いじめ介入プログラム作成の可能性について検討した。 第3に、援助行動や向社会的行動を促進する不協和研究の枠組みを適用した応用研究のレビューを行い、Aronson(1999)の提唱する認知的不協和の操作技術(偽善パラダイム)の特徴について、今後の応用研究の可能性について論じた。 これらの研究成果は学会誌等(Japanese Psychological Research 43(2),Psychologia 44(2),岡山大学教育学部研究集録、No.122)に掲載された。
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