米国と中国の研究者とメールなど各種の通信手段を駆使して意見交換した後、直接米国と中国を訪問し、あるいは国際行動発達学会時に、直接対面して、「他者と自己への寛容」に関する測定用具を開発した。その上で、海外共同研究者の協力を得て、日本・米国・中国において、小学4年生、中学1年生、及び高校1年生を対象に調査を実施し、比較文化的発達的検討を行った。主な結果は、次の通りであった。 1.「自己と他者への寛容」の機構に関する検討から、一つのモデルを提案した。すなわち、(1)信頼が希望を生み、希望が寛容へと導く、(2)他者からの信頼だけでは、寛容は生まれず、他者からの信頼が、希望を介してはじめて、寛容が生じる。また、(3)他者からの信頼が、自己への信頼を生み、これが希望へと繋がる。 2.日本の児童生徒の特質として、寛容と密接に関連する希望が、他国と比べて、相対的に、非常に弱いことが示された。他国の資料に比して、日本の児童生徒において、「他者に対して寛容である」のとは対照的に、「自己に対して寛容でない」ことが特徴的であった。この「自己に対して寛容でない」ことは「自己への信頼の弱さ」と結びついていた。そして、このことが希望の弱さにも帰結していた。 3.したがって、日本の児童生徒に「寛容さ」を育成するためには、希望涵養の鍵を握る「自己への信頼」をどのようにして育成していくかが、今後の重要な課題となるのではないか、と問題を提起した。 4.また、日本の児童生徒において、ストレス感や抑うつ傾向が、希望の弱さと関連していることも示された。
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