本研究では、環境リスクをマネジメントする組織への信頼が失われた後に、どのような政策がその回復につながるかを検討した。理論的背景としては、シグナリング理論や経済学における「人質供出」モデルを援用している。人質供出とは相手との取引において、裏切った場合に没収されるような財を供出することであり、裏切りの誘因をなくす事によって協力行動が導かれると考えるが、心理学的には、自らに不利な利得構造の変化を自主的に申し出る事が、能力や誠実性評価の改善につながると予想される。一連の実験結果から、信頼を失った組織は、今後のマネジメントに対する監視と不正に対する制裁制度を自ら申し入れる自発的人質供出により心理を回復し、能力評価を改善できる事が示唆された。一方、周囲から強く求められてから受け入れる場合は、まったく同じ内容に人質供出であっても何の対策も実施しないのと同じ程度に、信頼は改善しない事が示された。すなわち、利得構造の変化よりも、心理学的な「自発性」がシグナルとなる内的行動傾向への推察が信頼形成にとって重要ということになる。 しかし、一方、昨年度から進めていた宮守川改修事業についての住民意識調査では異なった結果が得られている。宮守川改修事業においては住民参加プログラムが導入されたが、これは住民による監視と制裁準備として機能する人質供出として解釈できる。しかしながら、このプログラム導入に対する評価と行政への信頼は独立しており、必ずしも住民参加が信頼改善の手段とはならないことが示唆された。 これら実験的研究結果と社会調査結果の相違についても検討を行った。
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