【目的】本研究では、乳児期から縦断的に観察をしてきた11組の親子が、小学校入学という生活形態の変化の局面でどのような社会-情動的な連続性を示すのかを明らかにすることを目的としている。とりわけ、困難な事態でも他者と調和的でpositiveな対処行動を示せる場合を「情動のしなやかさ」と概念化し、この側面と乳幼児期の母子のpositiveな情動を伴う相互交渉との関係性を検討した。そこで、家庭(母親)と幼稚園(回想的評価)・小学校の担任教師との間での子どもの見方がどれほど一貫しているか、つまり、家庭と学校という異なる社会的状況からの期待にどれほど適応的であるかを調べた。 【方法】(1)母親、幼稚園・小学校担任教諭への社会・情動的傾向質問紙、(2)家庭で家族、友達とパズルを解く際の社会情動行動の観察。 【主な結果】乳幼児期の母子のpositiveな相互交渉が家庭外での適応と関係するという期待に反して、家庭(母親)と幼稚園・小学校では期待される社会情動行動が違っていた。母親では扱いにくい子は「感情爆発型の子」で、期待されるのは困難な場面での情動統制であった。一方、幼稚園・小学校の教師では情動表出が曖昧で、反応が鈍い「分かりにくい子」が指導しにくく、期待されるのは葛藤場面で肯定的な情動に切り替えられる子だった。しかも、これらの特徴は家庭と学校とで独立で、とりわけ、「感情表出」、「欲求不満への肯定的対処」は、母親では重視されなかった。実際、乳児期からポジティヴな社会情動傾向で一貫していた対象児は、担任教師には学校での適応が低く評価される傾向にあった。したがって、このような家庭での発達傾向と教師の期待との相違は、家庭から家庭外の世界(小学校)へという生態圏移行での適応の困難を生む要因のではないかと考えられる。
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