研究概要 |
1.日本語と英語のモノリンガル児の発達の比較対照研究 日本語母語児2名と英語母語児2名について、母との自由遊び場面のビデオ録画に基づき作成された母と子の縦断発話データを(1)項が担う情報の新旧,(2)表現のタイプ(語彙化、代名詞化、省略)についてコーディングした.その結果、言語発達の初期においては、英語母語児も日本語母語児も旧情報を担う項は省略される傾向がみられたが、発達とともに、英語母語児は代名詞を使用し、日本語母語児は省略を続けるという傾向がみられ、それぞれの言語固有の法則を学習していることがうかがわれた。一方、新情報を担う項については、発達とともに英語母語児は語彙化をするようになるのに対して、日本語母語児は36ヶ月になっても、省略する場合が多く、英語母語児の方が日本語母語児より、動詞の項の談話・語用論にもとづく使用の獲得が早いことがわかった。 2.英語のバイリンガル児と日本語と英語のモノリンガル児の発達の比較 バイリンガル児1名の動詞の項構造の発達を、31ヶ月時点での発話データを1と同じ方法で、分析した。その結果、バイリンガル児は、英語の動詞の項の談話・語用論にもとづく使用の獲得が日本語に比べて早く、しかも、一般的な言語発達水準は低いにもかかわらず、言語発達水準の高い英語のモノリンガル児と同じような使用ができることがわかった。 3.日本語母語児の初語前と後における母親の言語入力の変化 2名の日本語母語児のそれぞれ生後10か月時点と21か月時点での各児の母の発話データを分析対象とした.母親の子どもへの言語入力を,1のコーディング法に(3)自動詞・他動詞の区別とその項の格(主格・目的格)を加えコーディングした.その結果、子どもが初語を発話する以前とそれ以降を問わず,母2名とも,デュボアの「好みの項構造」が確認された.すなわち他動詞の主語は,談話においてすでに述べられた旧情報を担うことが多く語彙化されにくかった.一方,他動詞の目的語と自動詞の主語は,他動詞の主語にくらべ新情報を担うことが多く,語彙化される傾向が強かった.子どもの初語発話以前とそれ以降の母による言語入力の変化は,各母の個人差が認められた.母によるこの言語入力の個人差は,子どもの項構造の獲得、特に好みの構造の獲得にどのような影響を与えることになるかを今後検討することが必要と思われる.
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