本年度は、平成13年度に構築した裁判事例に関するデータベースを基に、取調べ段階における供述調書を精査し、真犯人の供述と無実の者の供述の間における供述変遷の相違点について比較検討した。 そのためにまず、精査の対象となる事例を選定した。その結果、一旦自白したが後に他の証拠から無実であることが客観的に明らかになり、且つ、起訴後に真犯人が逮捕され無罪が確定した宇和島事件を分析の対象とすることとした。 次に、法曹関係者や事件関係者に依頼し、宇和島事件に関する資料を収集した。その中では特に、無罪が確定した被告人および真犯人の取調べ時の供述調書に注目することとした。両者の供述調書を取調べ時の時間変遷にしたがい表計算ソフトに入力し、その変遷プロセスの特徴を時系列に沿って分析した。 分析の結果、以下のようなことが明らかとなった。被告人の供述には実際に体験しなくても想像が可能な箇所が多く、一方、真犯人の供述には二次情報を含んでいない供述が多く見られた。また、被告人及び真犯人の供述には変遷が見られたが、両者の間に顕著な量的・質的差異は認められなかった。この点については今後の分析の課題である。更に、無知の暴露分析と秘密の暴露分析を行った。その結果、被告人には犯行に関する無知が、一方、真犯人には秘密の暴露が認められた。この他に、犯行供述の詳細について両者の供述を比較検討した。 来年度は、宇和島事件に関する公判廷での尋問コミュニケーションの特徴を分析する予定である。
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