研究概要 |
本年度の研究では,子どもの「あらそい」(「戦いごっこ」を含む)における攻撃/非攻撃的行為のやりとりを,進化心理学の観点から分析した。とくに,「あらそい」を「協力関係」に導く進化的安定戦略とされている応報戦略(Tit-for-Tat)の特徴を備えた行為がどの程度見られるかを,子どもたちの自由遊びの中での相互交渉過程の分析から調べた。その結果,4歳の子どもには,相手の行為に応じて自らの対応を変えていること,その対応は,応報戦略のバリエーションとみなし得るものが多いことが明らかになった。とくに,「あらそい」が過激化しないようにとの配慮からのさまざまな戦術(tactics)がとられることが明らかになった。 しかし,3歳児の事例で,4歳児に見られたような,「そらし」や「路線変更」のような,「過激化」を避けて,葛藤のレベルを一定に「保持する」ような行為はほとんど見かけなかった。ゲームのルールを相手の出方に合わせて調整することもできず,一方的に,「自分のルール」を押し通そうとする傾向が見られた。このよ,うに、「相手の出方に応じる」能力は、いわゆる「心の理論」(他者の認識や意図が自らのものと異なるものとして理解できること)の発達と連動しているという可能性がみられた。 本年は、上記の事例研究以外に、佐伯と森平菜津子(青山学院大学大学院研究生)との共同研究として、子どもの仲間づくりに関する進化ゲーム論的分析を行った。このような研究は次年度は一層深められることが期待される。
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