コミュニケーション発達においては、個人超越的言語体系ではなく、発話と個人性情報の関係が、言語所有者としての個人のアイデンティティと深く関わる重要な機能を持つことを仮定し、平成14年度は13年度に引き続き、発話の特定話者への帰属方略とその発達過程を、1.会話相互作用の行動分析、2.インタビュー・質問紙法、3.文献研究、によって調べた。 1.では、ビデオ録画資料の微視的分析によって抽出した、視聴覚的帰属方略のいくつかについて、発達的変化をより詳しく検討した。その結果、発話の帰属と微視的動作の開係において、視聴覚的志向性を示す動作(視線、顔体の向き、指さしなど)が自他の発話の帰属機能を果たすことが見出され、コミュニケーション発達につれて、発話および動作の繰り返しや同期、同質化など、帰属メカニズム方略としてより洗練されていくことが示された。2.では、発話の個人性情報と発話の帰属、さらに、各種形態の知的、私的創作物に関する著作権および所有概念、との関係について検討するため、幾つかの質問項目を新たに用意し、年長児と成人で調査した。さらに13年度の結果より上記1の行動レベルの発話の帰属と2のメタ的知識との乖離の原因を探ることが発話の帰属の本質と関わる重要な課題だと考えられたためその点の理論的検討を行った。結果から、発話と権利概念の関係は単純な関係ではなく、発話の帰属や知的所有概念に関わるものとして、会話や相互作用の社会文化歴史的構造を検討することの必要性が示唆された。そこで、3の文献研究では、子どもや大人の会話の構造の社会文化的な差異や、発話の意図に関する発達研究を探求した。今後、さらにこの観点から知的所有や著作権についての発達理論を構築することも目的としたい。
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