今日、心理臨床の対象領域やアプローチの方法は多様化してきているが、我が国の聴覚障害者に対する心理的援助の実践や研究報告はその緒についたばかりである。重複聴覚障害の場合、聴覚が損なわれていることに加え、知的障害や視覚障害、肢体障害、精神障害等を併せ持つため、障害の程度、発現は複雑である。また音声言語のみならず手話でのコミュニケーションも限定されており、対応はさらに困難を極める。 本研究は3年計画とし、重複聴覚障害者の心理的援助についての効果的なあり方について基礎的な知見を整理・提示し、さらに今後の課題を明らかにすることを目的とする。 研究代表者らは、1999年より重複聴覚障害者を対象とする埼玉県下の重度身体障害者入所授産施設(通所併設)からの要請に応え、その入所者を対象として心理的援助を行ってきた。その内容は、(1)精神疾患問題行動を抱える施設入所者に対する個別心理療法、(2)集団療法、(3)入所者家族に対する心理的援助、(4)施設職員に対するコンサルテーション及び心理的援助、(4)オンブズマン制度導入に伴う入所者・家族への面接、等である。 上述の心理臨床実践についてまとめた主要な論文は、以下の通りである。 ・村瀬嘉代子.「心の糧と子ども時代-生きられた時間の体験-」.児童青年精神医学とその近接領域.第44巻2号.1-11.2003年. ・並木桂・村瀬嘉代子.「重複聴覚障害者への心理的援助-ろう重複障害者生活労働施設における統合的アプローチー」.心理臨床学研究.第20巻6号.588-600.2003年.
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