3年余の重複聴覚障害者への心理的援助を通して痛感されることは、聴覚障害やさまざまな障害の特質についての理解を的確に持つ努力は当然必要であるが、このように重篤な状態にある障害者に対する心理的援助には、何にもまして、心理臨床の基盤が求められ、その上に個別化した方法をいかに編み出していくかということであった。実践の報告とその考察は各章に述べたとおりであるが、それらは次のように要約されよう。 1)一見、極めて重篤な状態の重複聴覚障害者であっても、人として遇する気持ちをもって出会い、見かけの「出来ない」「行動上の問題」などの背後にある意味を考えること。 2)緻密な観察、気付くことを心がけ、潜在可能性を見いだす努力をする。 3)既成のマニュアル的思考や方法に依拠するのでなく、その個人に即応した、どこからどう着手すればよいかを工夫する。 4)その個人に即応したコミュニケーションのチャンネルを探す。 5)家族がこれまでの過程を振り返られる場合、それを傾聴し、過剰な自責的気持ちから、過去の意味をそれなりに受け容れ、静かに今、これからを大切に考えられるように支える。 さらに、当の重複聴覚障害者と家族成員との関係については、繋がりが少しでもよいものになりうるように、コミュニケーションの工夫や視点の転換を一緒に考える。 6)職員については、その職員のこれまでの関わりで汲むべきものにまず注目し、自信とエネルギーの賦活を考える。障害や入所者の特性については、具体的実践的に、理解が深まるように話し合う。視点の転換、広がりを援助できるように。 7)家族の要望と職員の気持ちについても、率直に意見が述べられる場である努力をしつつ、双方が意図を摺り合わせ、現実的調和点を見いだせるよう援助をする。
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