本研究は、文化心理学的研究を基盤として、日常場面を通して形成される感情喚起の様態を認知評価理論に依拠しつつ検討し、場の評価次元の性質の文化的相違の結果、感情経験の質も文化に大きく依存するという可能性を文化比較的視点および発達的視点から探索するものである。今年度は研究1および研究2の一部を実施した。 研究1:感情認識における関係志向・独立志向 目的:日米大学生を対象に、感情経験場面の系統的な分析をもとに、以下の方法により検討した。 方法:携帯型のコンピュータを利用し、日常生活での感情経験をとらえるために、まず(1)感情の生起頻度、(2)感情の生起原因、(3)生起した感情へのコントロール等についてのインタビューを再分析した。それらから、日米においてよく生起する感情状況を取り出し、その対処方法についての質問紙を作成した。これを日本人大学生アメリカ人大学生それぞれ60名に回答してもらった。その結果を現在分析中である。また、小学校5年生50名ずつにも実施し、データを分析した上で発達的視点を検討しつつある。 研究2:感情認識における関係志向・独立志向発達過程 研究1の結果に基づき、幼児の感情認識の場面を、ビデオで日常的に追跡することにより、その発達過程をとらえることとする。一連の日米比較研究では、子育てにおける文化差を示してきている。しかし、幼児が感情認識を形成する際の文化的プロセスは、幼児-保育者間のコミュニケーションにおいて生起する社会的、かつダイナミックなものであると考えられる。そこで、今年度は(1)アメリカアリゾナ州フェニックスの幼稚園において、子どもの日常生活をビデオ、カメラなどにより記録した。現在、それらを分析し、自然な感情生起場面で、いかに文化的自己観(関係志向性・独立志向性)が子どもに反映しているかを検討中である。
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