説得的コミュニケーションの処理様式の違いをもたらす感情要因と個人差要因を中心に実証的研究を3つ行った。第1に、処理様式の違いを表す新たな個人差変数として多面的思考傾向を測定する尺度を構成し、項目分析を行い、基準関連妥当性の検討のために、帰属思考との関連を調べた。結果として、多面的思考傾向の低い者は、遂行結果の原因を他者のせいにする傾向が見出され、一定の妥当性が確保できた。 第2に、他の個人差変数として見込むことができる認知欲求、熟慮性尺度との関連を調べ、同時に、複雑な対人情報の記憶再生との関連を調べることによって、さらなる妥当性の検証を行った。記憶再生との関連はきわめて弱いものであったが、認知欲求、熟慮性尺度とは、有意で妥当な相関を見出すことができた。 第3に、本計画の最も主たる目的となる説得的コミュニケーションの処理に対して、準備してきた個人差変数がいかに働くかを、感情状態の影響と同時に検証する実験を行った。速い動画と、ゆっくりとした動画、および文章による広告の3種のコミュニケーション刺激をポジティブ気分、ネガティブ気分、ニュートラル気分の実験参加者に呈示し、商品に対する購買意欲、関心を測定したところ、多面的思考傾向の低い者は、信憑性に欠ける広告から影響を受けやすいこと、また、ネガティブ気分の者が速い動画を好み、感情改善傾向の強い働きが観察される成果が見出された。文献研究の成果を東洋大学社会学部紀要の論文として執筆した上、ナカニシヤ出版発行の「認知と感情」に執筆し(2003年4月発行)、さらに、培風館発行予定の「現代の社会的認知研究」、現在編集中の北樹出版「認知の社会心理学」に成果の一部を執筆した。
|