研究概要 |
日本文化におけるコンピテンスの発達過程を実証的に明らかにする本研究計画の一環として、本年度は成人期から老人期にかけてのコンピテンスの発達経過と、文化的自己観の内面化との関係を、(1)2・30歳代の若年成人、(2)4・50代の中年成人、(3)60歳以上の老人、の3群の計320名を対象に、質問紙調査により検討した。 この調査の結果,以下の諸点が明らかとなった。即ち、(1)コンピテンスの構造に関しては、Harterの理論とほぼ一致する傾向が見られた、(2)コンピテンスの発達経過に関しては、コンピテンスの各下位領域と全般的自己価値共に、総じて老人期に上昇する傾向が見られた。(3)文化的自己観の内面化に関しては、年齢と共に相互独立性は上昇する一方、相互協調性は低下する傾向が見られた、(4)各年齢層群を通じ、コンピテンス・全般的自己価値と相互独立性との間には正の相関、相互協調性との間には負の相関が認められる、(5)コンピテンス、相互独立性、相互協調性の相互関係について、各年齢層群に共通する類型が存在する、等がそれである。 これらの結果は事前の予測や従来の知見と一致するものも多いが、(1)日本人成人・老人に関してもHarterの枠組みがほぼ妥当する、(2)成人期から老人期にかけても相互協調性がなお低下する、の2点は事前の予測に反するものである。これらの矛盾を詳細に検討し、本研究計画の目的を達成するためには、日本文化におけるコンピテンス概念の再吟味、及び、調査対象者の代表性に関して更に検討を加える必要性が示唆された。
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