研究概要 |
日本文化におけるコンピテンスの発達過程を実証的に明らかにすることが本研究計画の目的である。Harter(1987)によるコンピテンスに関する理論的枠組みと測定尺度、および、Markus & Kitayama(1991)の文化的自己観とその測定尺度(高田,2000)に立脚して、青年期・成人期・老人期を対象とした3つの横断的資料と、児童期から青年期にかけての縦断的資料を収集した。その結果、日本文化における幼児期から成人期にかけてのコンピテンスの発達過程について、以下の知見と結論を得た。 (1)コンピテンスの構造に関して、一部の例外、とりわけ対人能力に関する下位領域を除き、各発達段階で基本的に原尺度とほぼ対応するコンピテンスの下位領域が認められる。 (2)コンピテンスの発達経過に関しては、(1)幼児期〜青年期の縦断的検討によれば、大半の下位領域において幼児期から青年中期までコンピテンスの自己評価は一貫して低下した後、青年後期で上昇する。自己価値については、児童期中以降青年後期まで有意な変化は見られない。(2)青年期〜成人期の横断資料によれば、大半の下位領域と自己価値で、成人期に自己評価が上昇する。(3)成人期〜老人期の横断資料によれば、幾つかの下位領域と自己価値で、老人期に自己評価が上昇する、の各傾向が認められる。 (3)文化的自己観との関係に関して、横断資料に基づく従来の知見に概ね合致する相互独立性・相互協調性の発達経過傾向が確認されたが、青年期と老人期の資料の一部で調査対象者の偏りに由来すると思われる例外が認められた。また、西欧文化を背景としたコンピテンスの概念は、日本文化においても一定の有効性を持つと考えられる一方、その発達過程は、相互協調的自己観が優勢な白本文化における自己認識の発達過程に概ね沿ったものであることが、自己スキーマの概念を援用した分析から示唆された。
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