本研究は、能力に代表される認知的個人差が学校教育現場、その中でも特に、教室内における教授学習場面において、どのように構成されていくのか、その社会的構成過程を明らかにするとともに、R.J.スタンバーグによる「思考スタイル」という新しい個人差を捉える概念を教師を通して教室に導入する際、どのような変容が生じる可能性があるのかを、教授学習過程の詳細な分析と、教師への質問紙の実施インタビューを通して把握することを目的とした。 (1)まず、知能研究における思考スタイルの理論的位置の検討をおこなった。思考スタイルは、知能(認知)と性格との接点と位置づけられ、R.J.スタンバーグによる知能の三部理論における心的な自己管理の特殊形態とされている。彼の知能理論における三種の知能との関連性はみられるが、完全に一致しているわけではないことが示された。 (2)次に、道具としての各種思考スタイル質問紙日本語版の開発をおこなった。簡易版、学生用自己評定質問紙、教師用思考スタイル質問紙を作成し、その評価をおこなった。 (3)実際の教授学習場面における能力概念の利用とその構成過程を検討するため、小学校低学年1学級を月1回1日の観察を5ヶ月間おこなった。併せて、教師へのインタビュー、教師自身の思考スタイル調査と児童の思考スタイル評価をおこなった。延べ900分にわたる教室内の会話データから詳細なトランスクリプトが作成された。教師自身に実施した思考スタイル質問紙の結果、教師による児童の評価、インタビューにおいて表現された教師の児童観、教授学習場面において観察される児童観との間には、一致する点もみられたが、他方で、不一致の点があることがみいだされた。 今後の課題として、道具としての思考スタイル可視化方法の開発と、これを用いた縦断的な介入研究が可能となるような教育実践プログラムの検討・開発があげられる。
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