本研究では、対人相互作用過程における抑うつ的な人(軽度抑うつ者)の自己概念(ネガティブな内容)の維持に焦点を当て、対人相互作用過程にかかわる抑うつ的な認知傾向が、自動的過程によるものか、制御的過程によるものかを検討した。具体的には、自己評価、自己呈示、他者による自分に対する評価の推測において、認知負荷によって、その評価、呈示、推測の内容が変容するかどうかを検討した。 全体として、認知負荷の効果は評価、呈示、推測を望ましい方向に変容させることが認められたが、抑うつ的な人においてその傾向が特に顕著であるということは認められなかった。この結果から、抑うつ的な人のネガティブな自己評価や自己呈示、自己評価の推測は、自動的過程によって支配されている部分が多いことが示唆された。 一方、抑うつ傾向ではなく、自己評価の程度を意味する自尊心との関係を検討したところ、低自尊心者において、認知負荷の下で自己評価、自己呈示、他者からの評価の推測が望ましい方向に変容する程度が顕著であることが示された。この結果から、低自尊心者の本来の自己評価や推測はあまりネガティブなものではないことが示唆される。これに対し、認知負荷によって評価や予測が影響を受けにくい抑うつ傾向の高い人は、自己評価がネガティブな内容に固定してしまっていると考えられるかもしれない。 この他、本研究では、対人相互作用場面での他者からの評価の推測についての研究のレビューを行った。ここで認められた推測のバイアス(例えば、対応バイアスの過大視)と抑うつ傾向あるいは、抑うつ的自己評価の維持との関係について検討することも重要だと考えられる。
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