研究概要 |
一般的に中高年者の認知・記憶機能は,加齢の影響によって低下していくといわれている.しかしながら,高齢者が日常生活を営む上で,加齢の影響によって認知・記憶のどういった側面に関し,衰退しているかをどのように感じているかに関する研究は,老年心理学の分野では行われていない.そこで,高齢者自身が日常生活を営むうえで,認知・記憶のどのような側面において支障をきたしていると感じているかを明らかにすることを目的とし,質問項目124個を作成し,高齢者を対象として調査を行った.対象者として栃木県老人大学校受講者450名を用いた.郵送によって回収された366名が分析の対象であった(回収率81.3%).年齢は61〜88歳であり,男性225名の平均年齢は68.5歳(SD 5.0),女性141名の平均年齢は67.7歳(SD 4.8)であった.日常認知・記憶の調査項目には合計72項目を用いた.評価項目には「まったくない」〜「いつもある」までの5件法を用い,1〜5点を付与した. 因子分析を行ない結果を整理した.因子名は以下のとおりであった.(1)第1因子:符号化・貯蔵・検索に関する記憶(2)第2因子:履望的記憶(3)第3因子:表情認知(4)第4因子:環境認知(5)第5因子:自伝的記憶(6)第6因子:最新情報機器の使用(7)第7因子:記憶補助 因子得点に及ぼす加齢の影響について検討した.前期・後期高齢者群の2群それぞれを男女に分け,因子得点の平均を算出した.因子得点について,年齢,性を要因とする分散分析を7因子ごとに行った.その結果,(2)展望的記憶,(4)環境認知,(6)最新情報機器,(7)記憶補助で年齢の主効果が得られ,加齢の影響が示唆れた.
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