研究概要 |
日常記憶のメタ記憶に関する研究では,記憶能力全般の検討が行われている.しかし,認知心理学で提唱されている具体的な記憶モデル(たとえば,作動記憶,展望的記憶など)を高齢者自身がどのように捉えているかの研究は行われていない.そこで,具体的な高齢者の記憶や認知のどのような側面において支障をきたしていると自覚しているかを明らかにすることを目的とし,調査を行い,因子分析によって因子を抽出し,具体的な質問項目の検討を重ねてきた. 平成14年度は宮城県気仙沼市において悉皆調査による1134名のデータを収集した.因子分析の結果,「情報機器の使用」「表情認知」「忘却」「保持」「自伝的記憶」「環境認知」「記憶補助」「展望的記憶」の8因子を抽出した.8因子のなかで,6因子の再現性を確認し,高齢者の記憶・認知の主観的側面は明らかになった. 新たに見いだされた「忘却」と「保持」の2因子は,高齢者の記憶の基本的な働きであり,重要な側面であることが考えられる.本年度は,上記の「忘却」と「保持」の2因子についてデータ整理を進めた.さらに,実際的なパフォーマンスを測定する日常生活動作能力(以下,ADL・IADLと略す)との関連についても検討を行った.その結果,2つの日常記憶の因子得点では,性差や加齢の影響は見いだせなかった。ADL・IADLに関しては,顕著な性差は見いだせなかったが,年齢が高くなるにつれて得点が低くなる傾向が見られた.日常記憶の因子得点とADL・IADLとの関連では,重回帰分析の結果,主観的な記憶機能低下とパフォーマンスとしての日常生活動作能力の低下が示唆された. さらに本年度は,宮城県気仙沼市において縦断調査も行った.その結果,824名分のデータを収集し,72.7%の追跡率であった,現在そのデータを解析中である.
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