1970年代のアメリカにおいて、古代ギリシャ以来続いてきた医療思想に、巨大な変化が起こった。医師の専権体制が疑問視され、ともすれば医師の操作の客体とみなされてきた患者の「自己決定権」が主張されるにいたったからである。こうして、インフォームド・コンセントを基礎とする医師と患者の「共同意思決定」が、徐々に制度化されていった。本研究は、この「医療思想革命」の結果、どのような医師ー患者関係が構築されてきたのか、それが21世紀にむけて、さらにどのような発展を遂げようとしているのかを、解明しようとするものである。 そのため本年度は、主として文献資料の収集と、その分析に力をいれた。その結果、(1)アメリカの病院には、バイオエシストや医療社会学者、医療ソーシャル・ワーカーなどの、医師以外の専門家がそれぞれ役割を果たしていること、(2)インフォームド・コンセントが制度化され、(3)カルテも原則として開示されていること、(4)入院病棟の管理は、看護婦(師)にゆだねられていること、(5)緊急のとき以外の手術は、病院内審査委員会や医療保険会社の審査を受けなければならないとされていることなど、総じて「医療思想革命」の洗礼を受け、それまでの医師ー患者関係とは大きく変化し、医師の専権体制は終わりをつげたことが確認された だが同時に、実態は病院ごとに様々であり、インフォームド・コンセントの方法も、多様となっており、なかには形式的なインフォームド・コンセントしかおこなわれていないケースもあるといわれている、この成果を基礎に、来年度はさらに実態にそくして、「マサチューセッツ総合病院」と「ハーヴァード大学医学校付属病院」で参与観察をおこなうとともに、医療専門職に面接、調査を実施し、こんにちのアメリカにおける医師ー患者関係の現状と将来展望とを、具体的に明らかにしたいと考えている。
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