本研究は、ベトナムの障害者福祉制度の展開過程に注目し、法・制度の運用と政策化の過程を明らかにすることを目的としている。研究初年度は、予備的作業として基礎的資料の収集およびその検討を行うとともに、障害者福祉・教育機関へのヒアリング調査を行った。 ベトナムでは、ドイモイ政策以降の対外開放と市場経済化の展開の中で貧富の格差が拡大し様々な社会問題を抱えている。しかし社会福祉制度そのものが制度化されていないため、社会問題への対応が遅れている。そのような枠組みの中で障害者福祉の展開過程についての特徴をあげておく。 第1に、障害児の就学保障では大都市部で初等教育段階約10%の就学率を見るものの、地方都市や農村・山岳地域では低水準である。大都市部ではインクルージョン教育が先駆的に試みられつつあるが、他方で全国的には不就学問題が深刻である。障害児教育教員養成については、ハノイ国家大学およびホーチミン国家大学において、障害児教育(特殊教育)研究センターおよび養成課程が設置され教員養成が開始された。第2に、就労や自立生活保障といった福祉分野では、障害者に関する基本法制定(1998年)により、ここ数年積極的な施策が見られるが未だ困難な状況である。例えばホーチミン市障害者支援センターでは肢体障害者、聴覚障害者を中心に職業訓練を行っているが就職率は54%にとどまっている。またセルフヘルプグループであるホーチミン市障害者青年団が結成され、積極的な発言と行動を開始している。なお障害の早期発見や早期療育、医療的ケアなどの保健医療体制はなお低い水準である。第3に、アジア太平洋障害者の10年(ESCAP)のハノイ会議が2001年末に開催されたこともあり、ここ数年は障害者施策の積極的な展開をみることができる。先の国会では成立しなかったが、障害者福祉法の制定が目ざされており、引き続き注目したい。
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