本研究の目的は、ベトナムにおける障害者福祉の制度化、展開過程、すなわち障害者の権利保障と社会福祉関連法の制定過程と制度的枠組みをについて、関係機関での資料収集とヒアリング調査を通じて、明らかにすることである。以下のような研究経過によって一定の研究成果を得た。 第1に、1990年代は「障害者の権利保障と社会福祉関連法制度の整備期」と位置づけ、2000年代は「施策の展開期」と予測できた。とりわけ憲法(1992年大幅改正)、障害者法(1998年)、教育法(1998年)等が1990年代に制定され、障害者の権利保障(生活権、教育権、勤労権等)が体系化さたことが明らかになった(黒田学「ベトナムの障害者問題と人権保障」『人権と部落問題』2002年6月号、黒田学「ベトナムにおける障害児教育・福祉の法的整備状況と施策の展開-障害児教育・福祉機関への訪問調査を通じて-」『障害者教育科学』45号、2002年)。第2に、500万人障害者の内、障害手当受給者はその約1割(1999年)であり、「2001-2005年5ヵ年計画に関する国会決議」(2001年12月)により、2010年までの10年間で本格的に施策を充実させることを計画化していることが明らかになった(黒田学「ベトナムにおける障害者福祉の制度化、展開過程に関する研究」日本社会福祉学会第50回記念大会、自由研究発表、2002年10月、黒田学、向井啓二、津止正敏、藤本文朗共編著『胎動するベトナムの教育と福祉』文理閣、2003年4月刊行予定)。第3に、2001年にベトナムで「アジア太平洋障害者の10年」(ESCAP)キャンペーン会議が開催され、ベトナム政府は障害者の「完全参加と平等」および生活向上への責務を国際的に掲げたことから、アジア太平洋地域における障害者の権利拡大の方向性についても考察することができた(黒田学「アジア太平洋障害者の10年・最終年(2002年)を迎えて」『障害者教育科学』44号、2002年)。
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