本年度は、これまでの諸成果を一定の形でまとめることを目指した。研究全体の終了は来年度であるが、ここでひとまずこれまでの研究成果を整理し、来年度は次のステップを見通した展望につなげることを目指さねばならない。 そのような方向性を意図してまとめられたのが、著書『道徳回帰とモダニティ-デュルケームからハバーマス-ルーマンへ』(恒星社厚生閣、2003年10月刊行)である。この著作は、公共性論と道徳論についてのこれまでの研究をまとめ、既に発表済みの論文も含めつつ、現時点で、現代社会のシステムと道徳ならびに公共性がいかなる位置にあるかを考察したものである。 第一部では、コミュニタリアンとリバータリアンの対立等に発する現代特有の道徳回帰現象から始め、ロールズの正義論やバウマンの「ポストモダン倫理」を経由して、ハバーマスとルーマンの道徳論上の対立点から、現代社会学が道徳にたいしてとるべきスタンスを検討した。 第二部は公共性に関する論考であり、ハバーマス、アレント、メルッチ、セネットらの公共性論を比較検討し、いわゆる第3セクターやNPOセクターの現代的意義についても一定の見解を示した。第三部は、これを社会学の理論的観点から学史的に整理したものであり、規範論的社会理論の可能性と限界について考察した。 上述の著作がどちらかというと理論学説に重きを置いた研究だったとすると、論文「リスク社会の共生空間-不知のエコロジー」(今田高俊編「産業化と環境共生』:ミネルヴァ書房、2003年12月刊行)は、より現実の社会の分析に焦点を当てた論考である。特に「リスク社会」現代社会特有の問題状況を中心的課題として取り上げ、これをシステム論的観点から再考したものであり、ニクラス・ルーマンのエコロジー論を援用しながら、現代のリスク社会において環境や共生の問題をどのように捉えたらよいかという事柄について、より一般的かつ包括的な見取り図を描こうとした。 これらの成果を踏まえて、来年度は新しい方向性の模索に向けて、より一層もステップアップを図りたい。
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