本研究は、教育改革が教育現場に対してどのような影響を及ぼしてきたかをテーマとしているが、その際、次のような二つの基本的視点に依拠していた。一つは、学校内部に変化をもたらすため、学校外部からどのような影響力が加えられようと、学校の内部組織を媒介とするものである以上、改革の影響を理解するにあたって、まずは、既存の内部組織のあり方を、いわば記述的に理解することが必要になってくるということであり、他の一つは、内部組織のあり方に、歴史的、地域的、人事的な要因をはじめとする様々な要因が、固有な「学校文化」の生成に影響を与えているということである。 この視点のもとに広島県を対象とした本研究は、(1)従来の県下の学校組織、学校文化の特徴を明らかにすることを目指し、(2)平成10年度から「是正指導」を受けた県教育委員会の教育改革政策を吟味し、その政策がどのような形で学校に課されてきたかを調べ、(3)この政策がどの変化をもたらしたかという三つの課題をもって展開した。 その際に、具体的に、文献研究、学校訪問観察、インタビュー、数量的調査などを通じて上記の課題に取り組んだ。研究の成果は「最終の報告」にまとめるものであるが、すでに、部分的な研究成果は国際学会などで報告・発表してきた。 最終報告の骨子は以下の通りである。この5年間、強烈な力を発揮することによって、県は特定の政治団体と中央機関(文部科学省)の要求を学校の隅々に伝え、耐えざる圧力をかけて、従来の学校組織・学校慣習を撤廃し、上下構造を重んずる新たな学校秩序の構築に努めたと言えよう。平成16年になって、この政策がほとんどの学校に浸透し、表面的に吸収されたように思われるが、学校や教員の「自立」を大きく犠牲にした面も明らかに見える。そのため、中・長期にわたって、この教育政策の遂行に伴う予測外の「コスト」が極めて高くなるものと推測できるであろう。
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