本研究は、県のレベルで推進された改革が、行政のヒエラルキーの末端に位置する教員の実際の行動を変えることができるかを問うものである。この問題提起は以前の研究によってすでに確認した二つの事項に基づいている。(1)教員の仕事の大部分は学校において蓄積された作業手順やルティンによって方向付けられている。(2)上記の作業手順やルティンは一定の安定性を保ち、学校外部の変化に左右されにくいものである。 今回の研究は、本報告書のそれぞれの章にあたる3つのテーマを対象としている。 1.第一に、筆者は1998年の是正指導の中身とその歴史背景について調べた。 2.是正指導前後の県内の教育課題を分析するため、県議会議事録における広島県の教育問題のキーワードとなった語の出現時期と回数を調べ、具体的な問題点の解明を目指した。 3.1998年以来徐々に実行された対策の効果を測ろうとした。ケース・スタディとして尾道市のある小学校の学長の自殺を取り上げ、その原因分析についての3つの報告書の比較検討を行った。後半部では、2004年1月に小中学校23校の教員に対して質問紙調査を行い、教員の日常において県内の教育改革がもたらした影響を分析する。 以上の作業を持って、次のことが明らかになった。1998年の是正指導以降の改革によって教育現場に極めて強い圧力が課されてきた。「公務員」である以上教員が果たすべき任務が強調されると共に、校長を中心とする学校内部の指揮命令システムが強化されてきた。生徒の学力向上、教員の質の向上、地域からの信頼関係の確保などといった教育的な配慮が取り上げられていたが、6年間が経った今日の結果で見る限り、広島県では教員管理が一方的に進められ、学校の自律した運営が抑えられ、教員を多忙化し、そのやる気を奪っている結果となっている。
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