全国市町村における国勢調査結果を元にして、平成7年の55〜59歳人口が平成12年の60〜64歳人口、及び平成7年の60〜64歳人口が平成12年の65〜69歳人口にどのようなコーホート変化を示しているかを計算した。その結果、949の市町村でコーホート変化がプラスになっている事実が発見された。これは平成2年から平成7年にプラスを示した市町村数よりも405多い結果となっている。 この結果は、向老期高齢者の市町村間移動が高まっているという事実を示すものである。このような高齢者の地理的移動に関しては、産業化と高齢者サービスの充実の影響によって3つの段階があるとする仮説がある。その仮説によれば、産業化の段階においては、若い人口を中心とする向都離村現象に付随的な高齢者の農村還流が生じるが、産業化の水準をある程度満たした後は高齢者サービスの充実度やインフラ整備や気候風土などの諸条件がそろったアメニティ度の高い特定の地域へのリタイアメント・コミュニティ志向の高齢者移動が多くなり、さらにそれらの諸条件が満たされる時代になると、高齢者の地理的移動は特定の地域に集中せず、拡散するというものである。 そこで全国市町村の保健福祉水準を示すさまざまな変数を収集して、データベースを作成するとともに、コーホート変化がプラスであった市町村の、企画財政など地域政策プランニングの担当者に対するアンケート調査を実施し、日本における高齢者の地理的移動が、どのような段階にあるものかを確定する判断材料を収集した。 また産業化によって向都離村現象が著しい中国の人口と生育計画委員会の要人や研究者と、高齢化社会と高齢者の地理的移動に関する研究の必要性について協議するため、北京、上海、成都を訪問し、第2回世界高齢化会議に合わせて開催された専門家会議バレンシア・フォーラムのリサーチ・アジェンダの相互確認を行なった。
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